川嶋先生

みなさんは「アニマルセラピー」って、聞いたことがあるでしょうか?
この研究は、世界でもまだ50年しかたっていない、新しい研究です。

アニマルセラピーとは、動物をつかって人の心やからだ、生活をゆたかにしていく方法や活動のこと。治療(ちりょう)の補助(ほじょ)としておこなわれる場合はお医者さまからの指示(しじ)がひつようで、病院や福祉施設(ふくししせつ)、特別支援(とくべつしえん)学校などでおこなったりするのだそうです。

今回は、動物介在(かいざい)療法(りょうほう)や動物介在活動(かつどう)のご研究をされている、東京農業大学の川嶋舟(かわしま・しゅう)先生にお話しを伺いました。

 

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―― 「動物をつかって人の心やからだ、生活をゆたかにしていく」ということですが、もうすこしくわしく教えてください。

いろいろな理由で、社会とかかわっていくことがむずかしい人たちがいます。たとえば、発達に障がいがあって社会とうまくかかわるスキルのない人。私たちは「あいさつはだいじだよ」って小さいころから習いますが、発達障がいの子にとっては、その「あいさつ」がとてもむずかしい場合があります。だから、社会でみんなとなかよくくらしていくために、たとえば「あいさつ」を、ほかの人よりもたくさん、その子のペースにあわせて練習したりするんです。

病気や高齢(こうれい)で、かぎられたはんいで生活をしている人もいます。また、人とのかかわりに自信がなく、社会にでていきたくない人たちもいます。

私は、そんな方々が社会にでていくことができるようになるために、動物をつかったプログラムをつくったり、じっさいにそのプログラムをおこなったりしています。

 

―― その、「動物をつかったプログラム」とは、どのようなものでしょうか?

人それぞれ、社会とうまくかかわれない理由がちがうので、いくつかの方法をくみあわせたりしながら、一人ひとりにあわせたプログラムをつくっていきます。動物をつかったセラピーには、大きくわけて3つのアプローチがあります。

身体(しんたい)的アプローチ。
社会的アプローチ。
心理(しんり)的アプローチ。

身体的アプローチでは、馬にのって歩くときの腰(こし)の動き方を学んだり、脳性(のうせい)まひの方の場合には、馬にのることで筋力(きんりょく)をつけたりします。馬のつなをひいたりもします。馬と自分のあいだに上手な距離(きょり)をつくったり、馬がほかの物にあたらないように注意しながらひくことも、とてもよい練習になります。

つえをつかなくては歩けなかった方が、つえなしで歩けるようになることもあるんです。

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―― 動物、というのは、「馬」なのですね。

私は、主に馬をつかっています。もちろん、ほかの動物でもできますよ。でも馬は大きいので、のることもできますし、かんたんに動かすこともできないので、いろいろなプログラムを作りやすいという利点があります。

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―― たしかに、犬やねこにのることはできませんからね><。先ほどおっしゃっていた、「社会的アプローチ」や「心理(しんり)的アプローチ」とは、どのようなものなのでしょう?

社会的アプローチでは、社会生活のスキルを身につけていきます。発達障がいの人などに対して、くりかえし教えてあいさつをできるようにしたり、順番(じゅんばん)をまもれるように練習していきます。

心理的アプローチでは、たとえば「自分はなにやってもだめなんだ」「仕事もうまくいかない」などと思っている人に、自信(じしん)をもってもらうためのプログラムとなります。上手に馬にのれたり、世話(せわ)ができたりすることによって、「できる」ことを作っていってあげるんです。自分が社会からみとめられていないと思いこんでしまっている人も多いので、自分の役割があるよ、ということを自分で気づかせてあげるようにします。

 

―― たしかに失敗(しっぱい)したりすると、おちこみますし、ほんとうに自信がなくなりますよね。

いちばん大切なのは、「ちがっていていいんだ」とわかることなんです。つまり、人は自分とはちがっているということをうけいれることが大切だと思うんです。

「ちがっている」ということを知ったり受け入れたりするためのプログラムとして、目かくしをしたコミュニケーション体験なども行うんですよ。

みなさんに恋人ができた場合、「ちがっている」ということを受けいれることが大切かもしれません。まだみなさんには少し早い話でしょうか(わらい)。

 

―― (わらい)。なるほど。「ちがっている」ことを受けいれることができれば、恋人のけんかも少なくなるのかもしれませんね(わらい)。ところで、先生の授業をうけられる学生さんたちは、どのような勉強をされているのですか?

じっさいの現場(げんば)で、自分たちでプログラムをつくって、実施(じっし)してもらっています。もちろん、実施(じっし)するまでにはちゃんと指導(しどう)をしています。学生たちには、優秀(ゆうしゅう)な成績をとる子よりも、考えることのできる子になってほしいと思っています。じっさいにプログラムを行うところにそのまま就職(しゅうしょく)する学生も多いんですよ。

 

―― 医療(いりょう)の現場でも、これからますますひつようとされる知識(ちしき)なのでしょうね。さいごに、先生の小さい時の夢と、先生の考えられる研究のさきにある未来をお聞かせください。

小さいころは宇宙にきょうみがありました。未知(みち)の世界にあこがれていました。小学4年生の時に動物園に行って、獣医(じゅうい)になりたいと思いました。野生の動物をたすけたいと思ったのです。

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でも、中学、高校生になって、人の「心」にとてもきょうみをもちました。だから、心の病気を治すお医者さんにあこがれたりもしたんです。でも、すこしちがうやり方として、獣医になって動物をつかったセラピーの研究をすることにしました。

「研究の未来」ですか。
私たちは、いつ障がいをもつかわかりません。いつどんなことがおこるか、わかりません。そんな時のためにも、「その人の価値観(かちかん)がみとめられる社会」になっていればよいなあと思っています。本人ができることをみとめてあげる社会です。

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はたらく場所づくりもおこなっています。障がいや病気を持つ人は、高校をでたらはたらく場所がなかったりします。そんな人のための職場(しょくば)づくりです。

 

―― ありがとうございました。一人でも多くのみなさんが、楽しく自信をもって社会にかかわれるとよいなあと思います。

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東京農業大学
http://www.nodai.ac.jp/

 

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東京農業大学農学部バイオセラピー学科 動物介在療法学研究室
准教授 川嶋 舟先生
博士(獣医学)
獣医師