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「ストレス」という言葉を、よく聞くようになりました。このストレス、おとな・こどもに関わらず、社会全体がかかえる問題となっています。ストレスを持っていると、体に様々な不具合をもたらします。「頭がいたい」「腰がいたい」。時には心の病気になることもあります。

北先生は、首都大学で「ストレス」と脳の神経伝達物質である『セロトニン』の研究をしています。その北先生にインタビューしました。

 

---いきなりですが、『セロトニン』について教えてください。

いやいや、それは難しいですね(笑)。大学でも最初は脳について勉強してから、研究の話になるので、まずは脳のことについて少し説明させてください。

脳は、その場所によって、はたしている役割がちがいます。脳の中でさまざまな神経がふくざつに行きかってそれらの役割を関連させ、人間の行動や感情になっています。

 

脳

 

手をまげたり、足をうごかしたりすること、「りんご」などのさまざまな「もの」を認識すること、または人を好きになったり、「勉強はやらなくちゃダメだけど、今日はさぼっちゃおう!!」なんていうのも、脳がふくざつにつながって、行動や判断が行われているんですよ。

たとえば私たちは「りんご」を見ると、「りんご」と分かりますよね。しかし、目で見ただけではそれが何であるかがわかりません。じつは目を通して脳の中の『視覚野(しかくや)』で認識し、手にしたときの重みや味などの過去の記憶とむすびつき、奥ゆきなども判断して、手に取ったりする事ができるようになるのです。

りんご

 

---モノを認識するのって、そんなに大変なことだったんですね。モノを認識するのは脳だと分かりますが、先生のおっしゃる「人を好きになったり」するのは「心」なのではないですか?

心を作りだしているのは、脳なんです。「好き」というのも、脳の中でふくざつに判断しているんですよ。実は「好き」という感情は、見たしゅんかんに決まっていて、「トキメキ」などとして体にあらわれています。「本能」の部分です。でも、「本能」とはべつに「理性」の部分があって、「かわいいから」とか「将来、役にたつから」など、あとから色々意味をつけて「好き」と判断しているのです。

 

---そうなんですか。「本能」と「理性」があって、好きになったり嫌いになったりするのですね。

そうです。動物はいまある感情しかありませんが、人間は「予測」や「記憶」が働き、「本能」にさまざまな意味づけを行います。それが動物と人間の違いです。

脳の中で、それらをふくざつにコントロールしているのが、『脳幹(のうかん)』。人間にとっては、とても大切な部分です。この脳幹の中に、3つの神経伝達物質『ドーパミン』『ノルアドレナリン』そして『セロトニン』があります。これらの神経伝達物質をうまくはたらかせることによって、人間のさまざまな機能をうまくはたらかせることができるようになります。

 

---やっと『セロトニン』が出てきました(笑)。

『ドーパミン』は、良い気持ちにさせてくれる(快感)性質をもっています。

『ノルアドレナリン』は、気持ちを高める(覚醒)性質をもっています。

『セロトニン』は、落ち着いたり、すっきりさせる性質をもっています。

 

---この『セロトニン』と「ストレス」のご研究のことを教えてください。

いま説明してきたように、脳の中のさまざまな神経システムが、おたがいに作用することによって、人間はさまざまな行動を行えるようになります。

反対に、行動や環境によって、脳が変化します。よい音楽をきけばリラックスできるし、運動したら気分がすっきりしますよね。そんな時に活発な動きをしているのが『セロトニン』です。つまり、セロトニン神経をしっかり働かせることによりストレスによる嫌な気分がはれるかもしれないのです。

 

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そこで、運動を行うことによって、脳の活性化やリラクゼーションをコントロールし、つまり『セロトニン』を多くし、「ストレス」を少なくできないかというのが、私が取り組んでいる研究です。

『セロトニン』は、いわゆる下等な動物でももっているので、そのような動物を使って研究を行い、人間への応用を考えています。

 

---ちかい将来、その研究は、どのように進んでいくのですか?

「うつ病」という病気を聞いた事がありますか?「うつ病」は、ゆううつな気分となり、やる気が出なかったり、おなかがすかなかったり、眠れなくなったり、さまざまな症状をひきおこします。原因は、「ストレス」などで脳がダメージを受けているためと考えられます。

病院で「うつ病」と診断されると、『セロトニン』を多くする薬が出されます。しかし、薬には副作用があるので、できればそれを自然の刺激、例えば運動などで『セロトニン』をふやしてあげる方が良いと考えています。今はどのような運動がよいのか、どのくらいその運動をやればよいのかを、実験などをまじえて研究しています。『セロトニン』(の活動)がふえるのであれば、運動でなくてもよいと考えています。

ネコ

 

食事などで鉄分をとらないと『セロトニン』(の活動)が減ることも実験で確認しつつあります。

 

---小学生が社会にでるころ、15年後には、これらの研究からどのような社会になっていればよいと考えていますか?

脳はまだわからないことがたくさんあるので、まず若い皆さんには、ぜひ、さらに脳を調べてほしいと思います。「病(やまい)は気から」と言いますが、脳を研究することによって、「ストレス」の解消法が分かればよいなあと考えています。

現代はデジタル社会なので、こどもたちも、昔の人が感じなかった「ストレス」を感じているかもしれませんが、「たいしたことじゃないんだ」というような事がわかるようになればよいですね。時代によって「ストレス」は違いますからね。

年令によって脳の発達段階もちがいますし、人種によっても脳がちがいます。脳を研究することによって、「ストレス」のすくない社会になればうれしいです。

 

---先生の小さい頃の夢と、今にいたるまでの道を教えてください。

こまりましたね。「ピー」をまじえて、書いてくださいね(笑)。

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こどものころの文集に、「科学者になりたい」と書いてありましたので、それを考えると、「正解」かと思います。また、途中からは「先生になりたい」と思っていましたから、それも「正解」ですね。

先生になりたいと思ってから、地元の大学の教育学部に入りました。今の大学では、スポーツ系から派生した研究を行っていますが、自分自身、スポーツが得意というわけではなかったんです(笑)。ただし、水泳は全国大会へいくレベルでしたが。

結局は大学の先生になることに決めたのですが、それは大学の先生方を見ていて、「楽しそうに生きていけるようだなあ」と感じたからです。ここは少し「ピー」ですね(笑)。

大学院で修士号をとり、就職して大学の先生になりました。都立大学(現在の首都大学)の理学部。いまは、理学部はありませんが、ここの先生になれたのはよかったです。他の先生がみなさん、博士号をとられた方ばかり。大学の先生になったのは「楽しそう…」というのが動機でしたが(笑)、もちろん「なまけたい」わけではなかったので、博士号をとるためにがんばりました!!

 

---学生さんたちは、どのような就職をされているのですか?

全体のけいこうをお話しすると、博士号をとっている学生は、ほぼみんな、大学の先生になっています。これは他の大学とくらべても、めずらしいことです。大学の先生の募集は、多くありませんからね。

修士号をとった学生さんの就職先は、まちまちです。研究職がいいなという希望をもっていたとしても、希望どおりなるとも限りませんから。

 

---先生の研究室の学生さんは、どのように研究を行っていくのですか?

行動と神経システムの活動をリンクさせながら、研究を進めています。『セロトニン』と「運動」の研究をおもに行っているわけですが、動物を使って運動をさせ、セロトニンが関係しているかを調べていきます。

北先生研究室

 

---北先生、ご協力をありがとうございました。先生のご研究で脳の解明が進み、ストレスの少ない時代になることを、私たちも願っています。

 

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取材:瀬川真未、梅澤信也